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こちら 時間差比較補償法からの続き(時間差比較補償法による2自由度制御について)

3.   「2自由度制御」に用いる時間差比較補償器(TDCC 法)の構成

   2自由度制御に用いる本補償器のブロック線図を図1に示す。 目標値 と制御出力 との通常の比較(直接比較)のほかに、 目標値 を 遅れ素子 により遅延させた設定値 と制御出力 との 時間差比較を行わせ、直接比較で得られる偏差量に配分率 を、 時間差比較で得られる偏差量に配分率 を与えて加算して得られる量を、改めて、本補償器の偏差量 として、 次の段階の帰還ループ内の制御器や補償器(PID/PI制御器など)の入力とするものである。
   図1に示すブロック線図を等価変換すると、図2に示すような目標値フィルタの構成となり、 フィルタの伝達関数は で表される。 の選び方は任意であるが、 多くの場合、 のような単純な1次遅れ要素を用いて、 この1次遅れ時間 と配分率 を適切に調節することで十分な2自由度特性が得られることが分っている。 この場合、フィルタの伝達関数は となり、設計の見通しがよく、 一般的な目標値フィルタよりも簡単でしかも特性のよい2自由度制御の設計が可能である。 勿論、 をより高次に変えること(下記文献11参照)も効果がある。

   
図1   2自由度制御のための時間差比
較補償器のブロック線図

は直接比較の割合。
遅れ素子は任意設計。
図2   図1の等価ブロック線図
目標値フィルタの伝達関数は

4.   PID 制御器と時間差比較補償器(TDCC 法)を組み合わせた2自由度制御

   図3のように、 に PID 制御器、 に本補償器による目標値フィルタを用いて帰還制御系を構成して2自由度制御を行わせるものである。 なお、 は制御対象である。 詳しくは、下記文献(1) [←ここをクリックするとPDF化された論文が提示できます]を参照されたい。


図3   TDCC法を用いた2自由度制御系

    PID 制御器 は次式で表される。

           ,                       (1)

ただし、は比例ゲイン係数、は積分時間、は微分時間を示す。
    時間差比較補償器の目標値フィルタ は次式で表される。

           ,                       (2)

ただし、 は直接比較の配分率、 は時間差比較補償器のおくれ時間を表す。
    (2)式をよく見ると、位相すすみ要素 と位相おくれ要素 から成り立っている。 そこで、パラメータ を使う代わりに、位相すすみ時間 を次式で定義してこれをパラメータとして使うこともできる。

           .                       (3)

    参考までに、ふつう考えられる のもとでは なので、 通常のフィードバックループ内に用いる基本的な位相すすみおくれ補償の位相すすみ時間と位相おくれ時間の大小関係とは反対になっていることに注意されたい。

    以上、 に1次おくれ要素 を用いて目標値フィルタ を構成した場合の 2自由度制御の調節パラメータは、、または、 である。

    設計方法は次のとおりである。
ステップ 1 : PID 制御器によって、利得余裕が希望する値に保たれるようにしながら、 外乱 の制御出力に及ぼす影響が最小になるように、または、ロバスト性が最大になるように設計する。
ステップ 2 : 本補償法による目標値フィルタによって、 目標値追従性が最良になるように調節する。

    このようにして得られる本2自由度制御の大きな特徴は、従来 PID 制御器だけでは困難であった、次の3つの大きな利点がある。
(利点1)利得余裕を希望する値に設定可能なこと。
(利点2)外乱に対する影響を最少に抑える、または、ロバスト性を最大する、ことが可能なこと。
(利点3)目標値応答を自由に設計できること。

    以上に述べた2自由度制御の設計指針をまとめると、つぎの表1のようになる。



表1 PID 制御器と時間差比較補償器(TDCC 法)を組み合わせた2自由度制御の設計指針
{注意1] 設計パラメータのすべての時間(、および、)は、
制御対象の特性時間(たとえば、1次おくれ時間)で規格化してある。 
{注意2] サーボ系の場合は PID 制御器のゲイン係数 に時間単位が含まれるので、
も制御対象の特性時間(たとえば、1次おくれ時間)で規格化してある。

制御器の種別
PID 制御器
時間差比較補償器(TDCC 法)
制御器の設計順序
STEP 1
STEP 2
制御器の設計内容
利得余裕が希望する値に保たれるようにしながら、
外乱 の制御出力に及ぼす影響が最小になるように、
または、ロバスト性が最大になるように設計する
目標値追従性が最良になるように調節する
設計パラメータの種類
比例ゲイン係数
     積分時間     
     微分時間     
直接比較の配分率
または、位相すすみ時間
時間差比較補償器の
おくれ時間
設計パラメータ
、または、

5.   応用例

    制御対象 として、むだ時間 を持つサーボ系 の場合の設計例を扱う。
   制御対象のむだ時間が の場合のステップ状目標値応答を図4中のカーブaに示す。 他のカーブbからeは、従来法による2自由度制御である。カーブf は目標値フィルタを取り去ったときの応答を示す。 ただし、前節に記述したように、遅れ素子 のような最も単純な1次遅れ要素を用いて 文献(1) に従って設計して、本補償器の設計パラメータの値 を用いている。
   本方法aは従来法bと共に優れているが、本方法の構造が単純であり、かつ、設計が簡単にできるという利点を持つだけでなく、 従来法は目標値フィルタに微分要素を含むために注意が必要であるが、本方法は微分要素を含まない、等の利点がある。
   また、 の場合の本方法aと従来法bとの目標値応答の比較を図5に示すが、 本方法の方が応答が速い。なお、カーブcは目標値フィルタを取り去ったときの応答を示す。


図4 制御対象のむだ時間がの場合の
ステップ状目標値応答

a は本方法、b, c, d, e は従来法による。f は無補償の場合。


図5 制御対象のむだ時間がの場合の
ステップ状目標値応答

a は本方法、b は従来法による。c は無補償の場合。


表2 、および、の各場合における設計例

制御器の種別
PID 制御器
時間差比較補償器(TDCC 法)
設計パラメータ
、または、
    
設計例(図4の場合)
0.29
11.5
1.52
0.35、または、3.44
9.83
設計例(図5の場合)
0.165
23.0
3.00
0.45、または、9.18
20.4


6.   実システムへの適用の難しさ

    サーボ系の制御対象に非線形で履歴(ヒステリシス)特性を有する摩擦機構がある実システムの場合、一般的な制御法と同様、 本2自由度制御の設計が困難になる可能性があることに注意する必要がある。


7.   時間差比較補償法(TDCC 法)の「2自由度制御」に関する発表文献および取得特許

(1) 山本信雄,大内 等 :「時間差で比較する機能を導入した2自由度PID制御」,電気学会論文誌D, Vol.123, No.3, pp.247-256 (2003).

(2) 山本信雄:「制御系の汎用性時間差比較補償法」,自動制御連合講演会前刷,pp.185-186 (1987).

(3) 山本信雄,上野悦史 :「時間差比較補償(TDCC)法を用いたディジタル設計」,茨城工業高等専門学校研究彙報,第40号,pp.59-64 (2005).

(4) 山本信雄:「制御系の汎用性時間差比較補償方法および装置」,特許公報 ,第2716437号 (1998).

(5) Nobuo YAMAMOTO : "Versatile Time Difference Comparison Compensation Method of Control System", United States Patent , No.4953076 (1990).

(6) Nobuo YAMAMOTO : "Method and apparatus of two-degrees-of-freedom time difference comparison compensator" , United States Patent , No.5182703 (1993).

(7) 山本信雄:「内部モデル協調型フィードフォワード及び汎用性時間差比較補償法」, 日本自動制御協会シグナル・システム・コントロール・シンポジューム講演論文集, pp.25-28 (1988).

(8) 山本信雄,小林 弥,藤井理嗣:「プロセスの2自由度制御系における利得余裕を重視したPID/PI調節計の設定法」, 電気学会茨城支所研究発表会講演予稿集,pp.59-60 (1996).

(9) 山本信雄,大内 等,清水 勲,後藤 巌,谷 俊一,小金沢竹久,小松崎 一,大川正浩: 「時間差比較補償法を導入した2自由度制御による目標値応答の改善」,計測自動制御学会学術講演会予稿集,Vol.1, pp.225-226 (1989).

(10) 山本信雄:「時間差比較補償器のパラメータ決定について」,計測自動制御学会学術講演会予稿集,Vol.1, pp.583-584 (1990).

(11) 山本信雄 :「2次系時間差比較補償(TDCC) 法による2自由度PID制御」,茨城工業高等専門学校研究彙報, No.40, pp.43-50, (2005).


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Updated: 2007.03.03, edited by N. Yamamoto.
Revised on Feb. 7, 2012, Sep. 07, 2013, Jan. 07, 3014, Jan. 18, 2017, Nov. 30, 2018, Dec. 03, 2018, Apr. 29, 2020, Feb. 03, 2021 and Mar. 31, 2022.