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TDCC 研究室

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ミラープローブ法による弱電離磁化プラズマ中の電子温度異方性の測定

山本 信雄

1.   まえがき

    磁化プラズマ中の電子温度異方性または電子速度分布異方性を測定するために、1970年頃に   八田吉典教授    (東北大学名誉教授、故人)のご指導の下に、    ミラープローブ法   (   同左)    を開発しました。この方法は中程度磁場、中程度プラズマ密度、および、低電子温度に適し、この範囲のプラズマでは、電子温度異方性の測定法は多分他にないようです。


2.   本方法の原理


図1 局所ミラー磁場



    測定原理は、図1に示すようなプローブ捕集面 Sp の直前に局所ミラー磁場を形成させ、通常のラングミュアプローブの測定原理に加えて、磁気モーメント保存則による電子速度の垂直成分に依存したプローブ電流の変化を観測することによって、電子速度分布の異方性、または、準平衡状態での電子温度異方性の測定を可能にするものである。
   測定原理は次のようである。仮定として、プローブ捕集面のスケールは電子のラーモア半径(サイクロトロン半径)よりもずっと大きく、かつ、測定対象の磁化プラズマのスケールよりずっと小さいものとする。

   図1において、電子の運動に関する磁気モーメント保存則は、
      ,                      (1)
ここに、はそれぞれ電子の質量、磁場に垂直方向の速度成分を表す。
   つぎに、エネルギー保存則は、
      ,                      (2)
ここに、は電子の磁場に平行方向の速度成分を表し、はプラズマ空間電位を基準としたプローブ捕集面の電位で、
      ,                      (3)
とする。
   (1)、(2)式より、
      .                      (4)
   電子がプローブの捕集面Spに突入する条件は、であるから、(4)式より、
      .                      (5)
   これは、後にについて積分するときの積分下限を与える。
   図1の面積, の各素面積を, とすると、磁束保存則によって、
      .                      (6)
   面積を通過する電子電流をとすれば、(5)式の条件を用いて次のようになる。
      ,                      (7)
ただし、
      .                      (8)
ここで、 はプラズマ密度を示し、は速度空間における電子の速度分布関数で、
      ,                      (9)
に規格化してあり、は速度空間における状態密度である。
   (6)式を(7)式に代入し、捕集面 dSp 全域にわたって積分すると、
      .                      (10)
   上式がミラープローブに流入する電子電流の基本式である。

   プラズマ電子が磁場に平行、垂直の各温度が異なり、そりぞれ、で表されるような bi-Maxwell を形成していると考えるとき、電子の速度分布関数は、
      ,                      (11)
ここに、
      ,                      (12)
および、
      ,                      (13)
のように表される。

3.   本方法の具体化

   本方法を実現する最も簡単な方法が、図2のように、小さな強磁性の球体を磁場中プラズマに適用することである。この球面上のスポット部分だけを電子捕集面として用い、他は電気的にシールドする。ただし、球体のスケールは電子のラーモア半径よりもずっと大きく、かつ、測定対象の磁化プラズマのスケールよりずっと小さくする必要がある。

      

図2 ミラープローブ法の原理図と測定例
[下記論文(2)掲載]

図3 実際のミラープローブ(内球は鋼鉄)
[下記論文(4)掲載]


図4 球ミラープローブの周囲の磁場



    スポット面の法線方向とプラズマ中の均一磁場方向の角度θを0度から70度まで変えることにより、スポット面上の磁場の強さをプラズマ中の均一磁場の3倍から1倍に変えることができる。すなわち、局所的な磁気ミラー比3から1に変えることができる。この球ミラープローブの周囲の磁場を描いたものが図4である。
   このミラープローブの均一磁場への挿入による局所ミラー磁場の形成、および、磁場の乱れの程度は、次式で与えられる。
      .                      (14)
ただし、
   従って、
      ,                      (15)
   また、磁力線は次式で表される。ただし、は各磁力線に付随する定数である。
      .                      (16)
   ミラープローブの表面では、
      .                      (17)
   ミラープローブはで使用するために、次の範囲内でなければならない。
      .                      (18)

   (17)式を(10)式に代入すると、球ミラープローブの電子電流は次式となる。
      ,                      (19)
ただし、
      .                      (20)

   電子の速度分布関数が bi-Maxwell 分布と仮定して、(11)、(12)、(13)式を(19)式に代入して計算すると、捕集スポットの角度に依存した電子電流をとして、次式を得る。
      .                      (21)
   上式より、
      ,                      (22)
ここに、
      .                      (23)

   (22)式によれば、もし、電子温度に異方性がない等方的 ならば、プローブバイアス電圧を一定に保つとき、角度に寄らず、スポット面に流入する電子電流は一定である。ところが、電子温度(または、電子速度分布)に異方性があって、例えば、温度が磁場に垂直な成分が平行な成分よりも大きいときは、局所ミラー比で決まる磁気ミラー効果によって、スポット面に流入する電子電流は角度が小さくなるほど減少する。この現象の度合いを測定することによって、電子温度異方性、または、電子速度分布異方性を知ることができる。

   再度、さかのぼって、図2では、横軸はプローブバイアス電圧を、縦軸は電子電流をそれぞれ表し、角度を4種選んでプロットしてある。どのθもバイアス電圧に対して同じ傾斜でプロットされている。このことは、電子の速度分布がほぼマックスウェル分布であることを示しているが、プローブバイアス電圧が一定のもとに異なる角度に対する電子電流を比較すると、角度0度の電子電流が最も大きい。上述の説明からは、磁場に平行な成分の温度ないしは速度が垂直成分より大きい異方性があると判断される。しかし、別の測定から図2の場合は、異方性ではなく、磁場に平行方向に電子集団の流れがあるために、一見、異方性が測定されるように見えるものであり、測定結果の解析には、特に、この点に注意が必要である
    図3は実際のプローブを示す。強磁性材料は安価な鋼鉄を使用し、写真では判別し難いが、球の正面に小さな円状のスポット部分を露出させる以外は、ガラスで被って、電気的シールドを施している。リード線はガラスに馴染みのよいモリブデン線を用いている。


4.   本方法による電子温度異方性または電子速度分布異方性の測定例

4.1   定常プラズマ

   以下の4種の実験装置でミラープローブを用いて電子温度異方性の測定を行った。異方性の兆候を示すものも散見されたが、ほとんどのデータは、球ミラープローブの測定で、電子電流が捕集スポットの角度に依存せずにを示したので、期待に反して、定常プラズマでは異方性がないと判断された。
   各装置について、もう少し詳しく述べる。


4.1.1   TPC装置(名古屋大学 [旧]プラズマ研究所)

       名古屋大学      (旧) プラズマ研究所    (1989年に核融合科学研究所として岐阜県土岐市に移転)の   TPC装置   において本方法による測定を実施した。本装置は、接触電離によって極めて静かな電子温度が0.2eVという低温のほぼ完全電離の定常セシウムプラズマが生成され、中性ガスが存在せず、無衝突のプラズマが実現される。通常は電子温度異方性は観測されなかったが、1ワットの6GHzのマイクロ波で外部磁場に垂直方向に電子サイクロトロン共鳴加熱を施したところ、磁場に垂直方向と平行方向との各電子温度の比の値が最大に到る   電子温度の異方性が図5のように観測された   。



図5 セシウムプラズマにおける電子サイクロトロン加熱による
電子温度異方性の出現

しかし、その後の追試では、その再現性は確認できず、等方性を示した。その理由は、実験時間が進行するにつれ、セシウム原子がマイクロ波窓に付着して、マイクロ波がプラズマ中に放射できなくなったためと考えられる。もう少し、粘り強く装置を整備し直して、追試実験を行えば再現できたかもしれない、と後悔している。

4.1.2   ステラレータ装置(名古屋大学 [旧]プラズマ研究所)

    名古屋大学(旧)プラズマ研究所の   ステラレータ装置   での定常プラズマに異方性は見つかっていない。その測定結果を同研究所の Annual Review に報告してある。

4.1.3   TPM装置(名古屋大学 [旧]プラズマ研究所)

    図6は名古屋大学(旧)プラズマ研究所の   TPM装置    を示す。2.45GHzマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴加熱(ECRH)によって、アルゴンガスの定常プラズマを生成し、外部ミラー磁場に閉じ込めている。
   ミラープローブによって観測された電子温度異方性を図7に示す。見て分かるように、電子温度が等方性を示していることがわかる。なお、誤差を示すエラーバーは、ミラープローブに流入する電子電流にノイズが混入したための不確定範囲を示す。


図6 TPM装置




図7 定常プラズマの電子温度異方性
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.20 mTorrで、
閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が
白丸は =2.35、黒丸は =3.95 の各場合。

4.1.4   TEPSON 装置(東北大学工学部電子工学科 [旧]八田研究室)

    図8は   東北大学   工学部電子工学科(旧)八田研究室の   TEPSON 装置   を示す。前装置と同様に2.45GHzマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴加熱(ECRH)によって、アルゴンガスの定常プラズマを生成し、外部ミラー磁場に閉じ込めている。
    ミラープローブによって観測された電子温度異方性を図9に示す。図9(b)の時刻 TIME=-7.3(ms) におけるプラズマ密度の急上昇で、電子温度の異方性が観測される以外は、ほとんどの時刻で電子温度が等方性を示していることがわかる。なお、誤差を示すエラーバーは、ミラープローブに流入する電子電流にノイズが混入したための不確定範囲を示す。


図8 TEPSON 装置




図9 定常プラズマの電子温度異方性
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.45 mTorrで、
均一磁場(ミラー比 =1 の 875 Gauss)中でなされた。

4.2   非定常プラズマ

    しかし、非定常プラズマ、すなわち、過渡プラズマ、その代表例として、閉じ込め用ミラー磁場中のアフターグローの電子は外部ミラー磁場によって閉じ込められるロスコーン分布をしていると考えられる。このロスコーン分布の平均エネルギーは、磁場に垂直方向が平行方向よりも大きいと考えられるので、ミラープローブによって、観測できないかと考えて、実験を遂行した。その結果、電子速度分布異方性が、以下に記述するように、観測された。

4.2.1   TPM装置(名古屋大学 [旧]プラズマ研究所)

    前節4.1.3項のTPM装置で、図10のような間歇的な方形波マイクロ波パルスでプラズマを発生させた後、パルスを切った直後にアフターグローが残ることが図10のミラープローブに流入する飽和電子電流から分かる。このアフターグローにおけるプラズマ諸量の時間推移を、参考として、図11に示す。


図10 マイクロ波入力パルスとプローブの飽和電子電流




図11 アフターグローにおけるプラズマ諸量の時間推移
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.25 mTorrで、
閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が =2.95.

    図12は、ミラープローブ特性の実測の2例を示している。全体が傾斜しているのは、プローブ電圧を調節する可変抵抗に、何らかの漏れ定電流が流れていたためであるが、この定電流は線形的に加算されているだけなので、プローブ特性には全く影響がない。
    得られた複数個のプローブ特性を、各時刻ごとにまとめて示すと、図13にようになる。実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.20 mTorrで、閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が、(a)図は =2.35、(b)図は =3.15 の各場合を示す。縦軸は、ミラープローブの捕集面の角度を0度と60度の2つの場合で測定した電子電流の比を表し、横軸はプローブバイアス電圧を表す。実曲線は、次式で表されるロスコーン分布から計算されたミープローブ特性の理論特性である。図13を見て分かるように、実測のプロット点と予測カーブがよく合っていることから、TPM装置におけるアフターグローの電子の速度分布関数は、次式で示されるロスコーン分布であると推定できる
      ,                      (24)
ここに、は規格化定数、は閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比、はミラー磁場中心のプラズマ空間電位を基準にした開口端のプラズマ空間電位を表す。ロスコーン分布を規定する速度位相空間を図14に示す。


図12 ミラープローブ特性の実測の2例
実験条件は、閉じ込め用の外部ミラー磁場の
ミラー比が =2.35 で、
(a)図はミラー磁場のミラー点における
空間電位が電子温度の電圧換算の2倍程度、
中性ガス圧(アルゴン) p=0.12 mTorr、
アフターグロー開始からの時刻 t=1.6 msec,
(b)図はミラー磁場のミラー点における
空間電位が電子温度の電圧換算と同程度、
中性ガス圧(アルゴン) p=0.20 mTorr、
アフターグロー開始からの時刻 t=0.8 msec,


図13 各時刻ごとにまとめた複数個のプローブ特性データ
実曲線は(24)式のロスコーン分布から予測される理論特性。
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.20 mTorrで、
閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が
(a)図は =2.35、(b)図は =3.15 の各場合。

    図15(a)は、図13で推定されたロスコーン分布をもとに計算された電子の平均運動エネルギー異方性 (電子速度分布異方性)の時間的推移を表す。なお、係数 は、 が速度空間 において2次元なので、 の1次元に合わせるためである。横軸にアフターグローが開始してからの時刻を示している。縦軸の数値"1"は等方性を意味し、"1"以上は、磁場に垂直方向が平行方向よりも電子の平均運動エネルギーが高いことを意味する。
    図15(b)は、参考図であり、横軸は閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比を表し、異方性の閉じ込め用外部磁気ミラー比に対する依存性を、観測時刻や中性ガス圧をパラメータにしてプロットしてある。図中の曲線はロスコーン電位をパラメータとした(12)式による理論カーブである。

    図15(a)を見ると、アフターグローが始まるときは電子の平均運動エネルギーが等方的であるが、閉じ込め用ミラー磁場のロスコーンからの流出に伴って異方性が現れ、プラズマ電位の再形成と共に再び等方的となる結果が示されている。

    以上の結果は、   日本物理学会講演会   、   論文1   、   論文2   に発表してある。


図14 ロスコーン分布を規定する速度位相空間


図15 ミラー磁場中アフターグローの電子速度分布異方性の出現

4.2.2   TEPSON 装置(東北大学工学部電子工学科 [旧]八田研究室)

   前節4.1.4項のTEPSON装置で、図16のような間歇的な方形波マイクロ波パルスで定常プラズマを発生させた後、パルスを切った直後にアフターグローが残ることが図中から分かる。このアフターグローにおけるプラズマ諸量の時間推移を、参考として、図17に示す。



図16 マイクロ波入力パルスとプローブの飽和電子電流




図17 アフターグローにおけるプラズマ諸量の時間推移
白丸は電子温度、白三角は中心プラズマから見たプラズマ左右両端の
ターゲット(図21(b)参照)の電位、黒四角はプラズマ密度。
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.53 mTorrで、
閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が =3.15.

    図18および19は、ミラープローブ特性の実測の例を数多く示している。


図18 ミラープローブ特性の実測の例
実験条件は、閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が =3.15,
中性ガス圧(アルゴン) p=0.53 mTorr、
アフターグロー開始からの時刻 t=0.17 msec.


図19 同左
実験条件は、閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が =2.95,
中性ガス圧(アルゴン) p=0.25 mTorr、
アフターグロー開始からの時刻 t は図中に記載。

    得られた複数個のプローブ特性を、各時刻ごとに図13のようにまとめて示すと、図20にようになる。縦軸は、ミラープローブの捕集面の角度を0度と60度の2つの場合で測定した電子電流の比を表し、横軸の は電子温度で規格化されたプローブバイアスを、パラメータの は電子温度で規格化され閉じ込め用のミラー磁場のミラー点での空間電位を表す。実曲線は、(24)式で表されるロスコーン分布から計算されたミープローブ特性の理論特性である。図20を見て分かるように、実測のプロット点と理論特性が合っていないことが分かる。これは、TEPSON装置におけるアフターグローの電子が(24)式で与えられるロスコーン分布に従っていないことを示している。
    そこで、図21(a)に示すような電子速度位相空間と図21(b)に示すようなミラー磁場における空間電位と両端の電極の電位、および、電子の中性ガス分子との衝突緩和時間等を総合的に考慮した「修正されたロスコーン分布」を提唱した。これは極めて複雑な過程を経て計算されるので、ここでは詳細は割愛せざるを得ないが、   1977年度の博士論文   に掲載してある。



図20 図13のようにまとめたミラープローブ測定データ
実曲線は(24)式のロスコーン分布から予測される理論特性で、
測定データと合っていない
は電子温度で規格化されたプローブバイアス、
は電子温度で規格化されミラー点での空間電位を表す。
図21 修正されたロスコーン分布を導き出すためのレイアウト






    図22に、ミラープローブの捕集面スポット角度毎の測定データを実曲線で表される「修正されたロスコーン分布」から予測される理論的測定カーブとを比較したものである。ここに、横軸は、電子温度で規格化したプローブバイアスを示す。図を見て分かるように、両者よく合っている。このことは、TEPSON装置におけるアフターグローの電子の速度分布関数は、上記の修正されたロスコーン分布であると推定される
    この後、ミラープローブの捕集面スポット角度を0度と60度の2つに絞って測定し、この比を取ったデータの3例を、修正されたロスコーン分布をもとに計算された理論的特性カーブと比較して、図23に示す。なお、理論的特性カーブに記したは、閉じ込め用外部磁気ミラー中心のプラズマ空間電位を基準にしたミラーポイントでのプラズマ空間電位を電子温度で規格化したものである。図23の結果により、修正されたロスコーン分布の妥当性が認められる、と同時に、ミラープローブの測定に信頼性があると判断されよう



図22 ミラープローブの捕集面スポット角度毎
の測定データ

は電子温度で規格化されたプローブバイアス。
実曲線は修正されたロスコーン分布から予測
される理論特性で、測定データとよく合っている
測定条件は、閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が
=3.15, 中性ガス圧(アルゴン) p=0.30 mTorr、
アフターグロー開始からの時刻は t=0.2 msec.
図23 プローブ特性データ
実曲線は修正されたロスコーン分布から予測される
理論特性
は電子温度で規格化された外部ミラー点の電位。
測定条件は、閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比が
=3.15, 中性ガス圧(アルゴン) p=0.30 mTorr、
アフターグロー開始からの時刻は t は図中に記載。



    図24から26は、修正されたロスコーン分布を基に計算された電子の平均運動エネルギー異方性 (電子速度分布異方性)の時間的推移を表す。なお、係数 は、 が速度空間 において2次元なので、 の1次元にに合わせるためである。横軸はアフターグローが開始してからの時刻を表す。縦軸の数値"1"は等方性を意味し、"1"以上は、磁場に垂直方向が平行方向よりも電子の平均運動エネルギーが高いことを意味する。
    どの図も、アフターグローが始まるときは電子温度が等方的であるが、閉じ込め用ミラー磁場のロスコーンからの流出に伴って異方性が現れ、プラズマ電位の再形成や電子の中性ガス分子との衝突緩和によって再び等方的となる結果が示されている。修正されたロスコーン分布をもとに計算した理論的な時間推移の曲線と定性的、定量的にもかなりの一致をみている。



図24 異方性の時間推移。実線は理論。
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.25 mTorr、
閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比 =2.95.
図25 異方性の時間推移(その2)
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.30 mTorr、
閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比 =3.15.


図26 異方性の時間推移(その3)
実験条件は、中性ガス圧(アルゴン) p=0.46 mTorr、
閉じ込め用の外部ミラー磁場のミラー比 =3.95.

    以上のTEPSON 装置での測定結果を   日本物理学会講演会   、   博士論文   、   日本物理学会講演会(その2)   に報告してある。

5.   考察および討論

    4.1節に述べたように、ほとんどの定常プラズマでのミラープローブ測定は、電子温度異方性を示さなかった。図7と図9がその例である。唯一、接触熱電離で作られる無衝突プラズマであるセシウムプラズマに電子サイクロトロン加熱を施した場合に、電子温度異方性を検出した。しかし、実験進行につれ、マイクロ波窓にセシウムが付着して、マイクロ波のプラズマへの進入が妨げられた結果、追試に失敗している。
    アフターグロープラズマ中のミラープローブの測定は、TPM装置では図12に見られるように電子速度分布関数が「ロスコーン分布」を示すことが分かり、TEPSON装置では図22、23に見られるように「修正されたロスコーン分布」を示すことが分かった。これにより、ミラープローブ測定の妥当性も認められよう。
    両装置ともに、アフターグローが始まるときは電子温度が等方的であるが、閉じ込め用ミラー磁場のロスコーンからの流出に伴って異方性が現れ、プラズマ電位の再形成や電子の中性ガス分子との衝突緩和によって再び等方的となる結果が示されている。これらは、ロスコーン分布、または、修正されたロスコーン分布をもとに計算した理論的な時間推移の曲線と定性的、定量的にもかなりの一致をみた。それらを図15、図24、図25、図26に示した。
    以上より、アフターグローにおける電子の平均運動エネルギー(電子速度分布)異方性の時間的推移の中性ガス圧依存性が図27のようになり、閉じ込め用外部ミラー磁場のミラー比に対する依存性が図28のようになることが分かった。



図27 異方性の時間的推移の
中性ガス圧依存性
図28 異方性の閉じ込め用外部ミラー磁場の
ミラー比に対する依存性

6.   あとがき

    定常プラズマとアフターグロープラズマの双方で、ミラープローブ法で電子温度異方性、または、電子速度分布異方性の測定を行った。定常プラズマでは、電子温度の異方性は見付からなかった。一方、アフターグロープラズマでは、ロスコーン分布、または、修正されたロスコーン分布による電子速度分布異方性が観測され、その異方性の大きさの時間推移を理論的に説明することができた。
    以上の研究経過から、ミラープローブ法が電子速度分布異方性の測定として有効な手段であると考えられる。

7.   本方法の問題点、ならびに、測定における注意点

    本方法は、ある程度の電子速度分布関数の理論的な推定が必要であり、その推定された理論的な分布関数から計算により、測定データを解析する必要があることなど、測定後のデータ処理がかなりの困難を伴う。それは、電子速度分布が、特にアフターグローでは、単純ではないからである。これがミラープローブ法の困難さの1つである。
    さらに、本方法は通常のプローブ測定と同様、プローブ本体をプラズマ中に挿入するために、プラズマを乱して挿入する以前と異なった特性に変化させる可能性があることが大きな欠点である。本プローブには、強磁性体の球体を使用しているために、プローブ全体の大きさが通常のプローブより大きくなり、よりプラズマへの影響が大きい。
    また、第3節の図2の測定結果のように、プラズマの磁場方向への電子集団運動があるときに生ずる異方性測定への誤判断に注意する必要がある。



[発表論文]

(1)    N. Yamamoto, Y. Hatta, H. Aikawa and H. Ikegami: "Measurement of a mirror probe method of the electron distribution function of afterglow plasma confined in a magnetic mirror field", Physical Review A, Vol.13, No.4, pp.1543-1547 (1978).   

(2)    N. Yamamoto and Y. Hatta: "Magnetic Mirror Probe Method for the Determination of Anisotropy of Electron Temperature in a Magnetized Plasma", Appl. Phys. Letters, Vol.17, No.12, pp.512-514 (1970).   

(3)    N. Yamamoto and Y. Hatta: "Erratum in the above ref.(2)", Appl. Phys. Letters, Vol.20, No.6, p.233 (1972).   

(4)    山本 信雄, 八田 吉典: 磁気ミラー・プローブ法による磁場中プラズマの電子温度異方性の測, 核融合研究, 29巻, 3号, pp.166-192(1973).   

(5)    山本信雄: ミラープローブによるプラズマ中の電子温度異方性の測定,工学博士論文(東北大学),1977年12月.   


[coffee break]

(1)   お世話になった近藤いさお 殿

   古いアルバムを倉庫から出して見ていると、東北大学大学院時代に大変お世話になった近藤験 殿の写真がありました。懐かしくなって次に掲載させて戴きました。近藤殿とは現在に至るまで繁く文通の交流が続き、いつも激励のお言葉を戴いて感謝しています。
    近藤験 殿は山口県徳山市のご出身で、茨城大学工学部をご卒業後、㈱日立製作所、広島大学大学院修士課程、東北大学大学院工学研究科気体電子工学講座で気体放電陽光柱における   移動縞の分光学的研究   に従事しました。現在、水戸市千波町字千波山にご在住。なお、近藤殿は大学時代、ハンドボールに腕を磨かれたそうです。

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1966年春 八田研究室の奥松島・
野蒜(びる)海岸と大高森ハイキングにて

右から、近藤験 殿、手島建夫 氏(東北大学
抗酸菌研究所名誉教授)、山本(私、当時
MC1年)、西田靖 氏(宇都宮大学名誉教授、
前・同大学副学長)。

同左(大高森にて)
左が近藤験 殿、右が山本(私、MC1年)。
手前左が斉藤進 氏(当時DC3年、後に、
日立中央研究所、および、日立工機㈱)、
右が元技官の山崎氏

(2)   日本物理学会・プラズマ核融合分科会および核融合懇談会(現在のプラズマ核融合学会)プラズマ若手グループによるプラズマ夏の学校

    私(山本)が東北大学大学院工学研究科修士課程1年の1966年夏にプラズマ夏の学校に参加して、国内のプラズマ・核融合の若手研究者と交流しました。
    幹事校は京都大学で、京大の若手研究者の方々が素晴らしい企画をして下さいました。全国の若手研究者50名余が岐阜県の高山駅で落ち合って、貸し切りバスで、北アルプスの奥飛騨温泉郷の新平湯温泉のある岐阜県吉城よしき上宝かみたから村(現・高山市)一重ヶ根ひとえがねに来ました。当時の国道は悪路で、バスがれて谷に落ちそうになると、誰かが、「もし、転落したら、日本の核融合研究がストップするなあ。」と冗談半分に言ったのが印象的でした。世話人である京都大学の若手研究者のお陰で大変有意義のある研修を重ねることができました。感謝しています。
    各民宿に分散して一息ついた後、先ずは、千年も伝わるかと思われる鐘や太鼓や笛の曲に合わせてのにわとり仕草しぐさ真似まねた軽快なおどりの民俗芸能を、地元の方々によって披露して歓迎して下さいました。翌日からは、著名な専門家数名をお招きしてプラズマ核融合の集中講義が続きました。
    中日(なかび)のレクリェーションとして行われた北アルプス・焼岳登山が次の画像です。(南峰[標高2455メートル]、北峰[2393メートル]のどちらかは不明。)雨裂の凹みには真夏にもかかわらず、かなりの量の雪渓が鮮やかでした。(ただし、頂上付近は噴煙の熱気と地熱により、雪はほとんどありません。)噴煙(蒸気)におののきながら大きな岩にへばり付いて命からがら(?)頂上にたどり着きました。気温の高い快晴の上天気の中、目の前が穂高岳槍ヶ岳富士山もはっきり見えました。そして、眼下には上高地が箱庭のように手に取るように見下ろせ、この世の別天地を楽しみました。この後、避暑客と登山者で大にぎわいの上高地に降りて、梓川河童橋の周辺を散策しました。
    なお、その後再び火山活動が活発になって、長年登山禁止となっていましたが、今は解禁されていると思います。(詳細不明)


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1966年夏  北アルプス焼岳にて
プラズマ夏の学校での登山。

山岸氏(当時、広島大学、
現・筑波大学名誉教授?)が撮影





1966年夏 北アルプス焼岳にて
山本(私、MC1年)は右端。多くの
メンバーのお名前は失念していますが、
右から5人目が東辻氏(当時、東大MC1年。
現・岡山大学名誉教授)。

山岸氏(当時、広島大学、
現・筑波大学名誉教授?)が撮影

同左
バックは穂高岳
矢印が私





    その後、プラズマ夏の学校は、1967年に長野県麻績郡大岡村(現在は長野市)の聖高原、1968年に長野県上田市菅平、1969年に長野県南佐久郡小海町松原湖、1970年に長野県茅野市白樺湖で行われました。いずれも有名な避暑地でわくわくしたものです。現在もプラズマ核融合学会の若手研究者で継続されています。


(3)   八田研究室のひとコマ(プラズマ・イオン波反射実験装置、1966年)

    上記本文のミラープローブの前面に作る局所ミラー磁場に、当初は強磁性体球ではなく、極小の電磁石を計画していました。この電磁石を駆動するための大電流パルス発生器として、GT管という真空管で構成したカソードホロア方式の大電力増幅器を私が製作しました。(当時は未だステレオもテレビも真空管の時代で、本装置に適合できるパワートランジスタは未だありません。)その後、強磁性体球の使用により、この大電流パルス発生器は使わずに放置していたわけです。
    一方、当時学部4年の   佐々木悊彦あきひこ氏(宮城高専名誉教授)   と   青木和之氏(元・名古屋電波管理局長、現・VICSセンター常務理事)   が、   佐藤徳芳先生(東北大学名誉教授)   のご指導の下、下記の写真に示す装置で、プラズマ・イオン波反射実験を始めていました。翌年にはMC1年の杉江啓氏も加わって、実験を継続しましたが、いかなる既存の信号発生器を用いてもイオン波の反射が見つかりません。最後に、私が製作して放置してあった上記の大電流パルス発生器を杉江啓氏が使用して実験を再開したところ、   世界で始めてプラズマ・イオン波の反射   (   同左   )が観測されたのです。
    なお、このガラス容器は東北大学工学部電気系のガラス工場で、ガラス細工の名人・千葉一裕氏(故人)が製作されました。プラズマは水銀蒸気の直流グロー放電です。

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1966年 八田研のイオン波反射実験
立っている4人の左から、

佐々木悊彦あきひこ氏(宮城高専名誉教授)、
菅井秀郎ひでお氏(名古屋大学名誉教授)
山本(私、MC1年)、
高橋好徳氏(前・東北大学技官)。

前に座って居られるのが
青木和之氏(元・名古屋電波管理局長、
現・VICSセンター常務理事)。

1967年 八田研の一コマ
左から、
山本(私、MC2年)、
高橋好徳氏(前・東北大学技官)、
杉江啓氏(MC1年)








(4)   ミラープローブ発表当時の思い出

       初めて日本物理学会でミラープローブを発表したとき、当時の名古屋大学プラズマ研究所の   高山一男所長(故人)   (   同左   )から直々に質問と激励のお言葉があり、日本物理学会・プラズマ核融合分科会で一寸話題になりました。



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Updated: 2007.3.15, edited by N. Yamamoto.
Revised on Feb. 17, 2015, Mar. 16, 2015, Jul. 22, 2016, Dec. 02, 2018, May 02, 2020, May 04, 2020, Jan. 13, 2021, Jan. 31, 2021, May 09, 2021, Mar. 29, 2022 and May 05, 2023.